副住職の「歳時記」vol.14 2023年(令和5年)7月 盂蘭盆会
伊藤 悦央
聖号十称
ご法事などをする時によく「回向(えこう)する」という言葉を使います。これは亡き人のためにお経をお称えすることと思われても遜色はありませんが、正しくは文字通りに「回し向ける」ことを意味します。何をかというと、私たちの功徳(くどく)(=念仏をお勤めして得た効果・徳)です。ご承知のように、本来念仏は自身の極楽往生を願ってお称えしますので、功徳も自身に積もり積もっていきます。その功徳を他におすそ分けする行いが回向であり、これは利他(りた)(=他の利益のため)の精神にのっとっている素晴らしい行いです。
この回向の行があるからこそ、仮に「うちの父ちゃんはお念仏を称えているのを見たことがない」という方がいらっしゃっても、遺された人の思いが重なって往生ができるのです。(もちろんお念仏はしっかりお称えしましょう)
また既に往生を遂げているであろう故人に対して、回向するとはどういうことでしょうか。以前往生は私たちの目的であると申しましたが、往生をしてからも大事な目的があります。阿弥陀様のお創りになった世界へまずは行って、その最高であろう環境の中で人間界ではできなかった修行をする。そしていずれは自身が仏になって衆生(しゅじょう)を導く存在になる。浄土宗ではここまで行って初めて「成仏(じょうぶつ)」すると言います。この流れを意識していただければ他には何もいらない。そう言えるほど、これが教えの大筋です。回向はお浄土で修行に勤しむご先祖様を応援し、自身の功徳を差し向けることによって、一日も早い成仏を願うことでもあるのです。
したがって回向とは僧侶だけができる特別な力ではありません。皆様を先導するのが僧侶の役目であり、ご法要の際はご参列のお一人お一人が主役になります。また法事を執り行うことは、親族・知人が力を合わすことのできる最良の場であると考えていただけたら幸いです。
私たちのお念仏の一声は亡き人にしっかりと届いています。普段ご家庭のお仏壇やお墓に向かい手を合わせるのも、ご先祖様への回向と言えるでしょう。どうぞお盆を迎えるにあたり、共により一層の御精進を下さいますようにお願い申し上げます。
至心合掌